日本の民話 409 桃太郎                             

文:川越文子/絵:井出文蔵

 なんと昔あったそうな。
 あるところに、お爺さんとお婆さんがおった。お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行って、
二人は仲よう暮らしておった。ある日のこと、お婆さんが川で洗濯をしょうたら、川上から大きな桃が
ドンブラコ、ドンブラコと流れてきた。
「ありゃあ、ええもんが流れてきた」
食べてみたら、なんともいえんほど旨かったもんで、お婆さんはお爺さんにも食べさせたいと思うた。
「も一つ流れや、爺さんにやる。も一つ流れや、爺さんにやる。」
そしたら、また桃が流れてきたんで、お婆さんは喜んで持ってかえり、櫃に入れておいた。帰ってきた
お爺さんが櫃を開けたら、中には元気な男の子がおった。
「桃から生まれたけん、桃太郎じゃ」
お爺さんとお婆さんは、子どもができたと大喜びで、桃太郎を可愛がって育てた。
桃太郎が大きゅうなったころ、近所の人が、
「桃太郎さん、山へ薪を拾いに行きましょうや」
と誘いにきたそうな。桃太郎は、
「今日は、なんもこしらえができとらん」
と言うて行かん。あくる日、また近所の人が、
「行きましょうや」
「今日は、背な当てを作らにゃならん」

と言うて、やっぱり行かん。次の日、
「行きましょうや」
「今日は、わらじを作らにゃあいけん」
また次の日、「行きましょうや」
「今日は、わらじのひげをむしらにゃならん」
またまた次の日、「行きましょうや」
「そうじゃなあ。用意ができたけん、まあ行くかなあ」
と言うて、やっと桃太郎は山へ向かった。けえど山へ入っても、大いびきで寝てばかりおる。
ちっとも働かんで、「帰りましょうや」と言われたとき、桃太郎は持って帰る薪が一つもない。
「わしらも、あげるほどこしらえとらんでなあ」
そしたら桃太郎は、「あーぅ」とあくびのあと、木を根っこからひっこぬき、担いで帰ってきた。
「お婆さん、帰ったで。どこ置こうか」
お婆さんが見たらば、薪は大きな木がそのままじゃ。
「庭へなと置いとくれ」
「庭へ降ろしたら庭がくだけるがな」
「それなら軒下へ置こうか」
「軒下へ置いたら、軒がくだけるがな」
「上の木小屋へ背負うてあがって、木小屋へでも降ろしな」
「木小屋が飛ぶんじゃねえかなあ」
桃太郎がどさっと木を降ろしたら、やっぱり木小屋は、ふっ飛んでしもうた。
 また、ある日にな、桃太郎はお婆さんに。「キビダンゴを作ってくれえ。鬼退治に行く」と言うたそうな。
お婆さんが臼をひいてキビダンゴを三つ作ってやるとな、桃太郎はそれを腰にさげて出発した。
すると雉が出てきて、桃太郎に言うたそうな。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
キビダンゴを半分やって行きよったら、今度は蟹が来た。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
また行きよったら、今度は空臼が来た。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
そのあと、どんぐりも来た。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
 鬼の家へ着いたらな、まず雉が鬼の留守を探った。桃太郎はほかのみんなに指図じゃ。
「どんぐりは囲炉裏、蟹は水かめ、空臼は庭ん口。隠れとれ」
帰ってきた鬼が囲炉裏の側へ行ったら、どんぐりがはじけて鬼の目へあたったもんで「あちち」と鬼は水かめへ
顔を入れた。そしたら蟹にチカチカ挟まれたんで、今度は外へ逃げた。待ってましたと空臼が上から落ちて、
鬼を押さえつけてな、そうして桃太郎は鬼をやっつけ、お爺さんとお婆さんに宝物を持ってかえったそうな。
 昔こっぷり。


−筆者のことば−
「桃太郎」の舞台の岡山では、一般に知られている「鬼退治型」と、力はあっても働くのがあまり好きではない
男の子の「山行き型」とが伝わっています。
 英雄ではありませんが、おおらかな「山行き型」の桃太郎も、昔から親しまれている話です。(かわごえ ふみこ)

                                                   楽しいわが家 3月号 (社)全国信用金庫協会 発行