と言うて、やっぱり行かん。次の日、
「行きましょうや」
「今日は、わらじを作らにゃあいけん」
また次の日、「行きましょうや」
「今日は、わらじのひげをむしらにゃならん」
またまた次の日、「行きましょうや」
「そうじゃなあ。用意ができたけん、まあ行くかなあ」
と言うて、やっと桃太郎は山へ向かった。けえど山へ入っても、大いびきで寝てばかりおる。
ちっとも働かんで、「帰りましょうや」と言われたとき、桃太郎は持って帰る薪が一つもない。
「わしらも、あげるほどこしらえとらんでなあ」
そしたら桃太郎は、「あーぅ」とあくびのあと、木を根っこからひっこぬき、担いで帰ってきた。
「お婆さん、帰ったで。どこ置こうか」
お婆さんが見たらば、薪は大きな木がそのままじゃ。
「庭へなと置いとくれ」
「庭へ降ろしたら庭がくだけるがな」
「それなら軒下へ置こうか」
「軒下へ置いたら、軒がくだけるがな」
「上の木小屋へ背負うてあがって、木小屋へでも降ろしな」
「木小屋が飛ぶんじゃねえかなあ」
桃太郎がどさっと木を降ろしたら、やっぱり木小屋は、ふっ飛んでしもうた。
また、ある日にな、桃太郎はお婆さんに。「キビダンゴを作ってくれえ。鬼退治に行く」と言うたそうな。
お婆さんが臼をひいてキビダンゴを三つ作ってやるとな、桃太郎はそれを腰にさげて出発した。
すると雉が出てきて、桃太郎に言うたそうな。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
キビダンゴを半分やって行きよったら、今度は蟹が来た。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
また行きよったら、今度は空臼が来た。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
そのあと、どんぐりも来た。
「桃太郎さん、どこへ行くんですか」「鬼退治じゃ」「腰のものは何ですりゃ」「日本一のキビダンゴ」
「一つくだされ、お供をします」「一つはやれん。半分やる」
鬼の家へ着いたらな、まず雉が鬼の留守を探った。桃太郎はほかのみんなに指図じゃ。
「どんぐりは囲炉裏、蟹は水かめ、空臼は庭ん口。隠れとれ」
帰ってきた鬼が囲炉裏の側へ行ったら、どんぐりがはじけて鬼の目へあたったもんで「あちち」と鬼は水かめへ
顔を入れた。そしたら蟹にチカチカ挟まれたんで、今度は外へ逃げた。待ってましたと空臼が上から落ちて、
鬼を押さえつけてな、そうして桃太郎は鬼をやっつけ、お爺さんとお婆さんに宝物を持ってかえったそうな。
昔こっぷり。
−筆者のことば−
「桃太郎」の舞台の岡山では、一般に知られている「鬼退治型」と、力はあっても働くのがあまり好きではない
男の子の「山行き型」とが伝わっています。
英雄ではありませんが、おおらかな「山行き型」の桃太郎も、昔から親しまれている話です。(かわごえ ふみこ)
楽しいわが家 3月号 (社)全国信用金庫協会 発行 |